パナソニック コネクト株式会社の徹底的に現場と向き合うDEI推進活動。グループ全体と世の中を変えるその原動力とは

パナソニックコネクト様担当の4名+ロゴの集合写真

2023年の東京レインボープライド(TRP)に協賛したパナソニック コネクト株式会社。その名の通り、パナソニックグループの1社として、2022年4月のホールディングス化を機に発足した新会社である。DEIへの取り組みを役員自ら全国を回って推進しているというその原動力はどこから来るのか。DEI担当役員の西川岳志さん、山口有希子さん、そしてDEI推進室の油田さなえさん、池松奈穂さんに話を聞いた。

パナソニックコネクト株式会社
取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CFO DEI推進担当
西川岳志様

執行役員 ヴァイス・プレジデント CMO DEI推進担当
山口有希子様

人事総務本部 DEI推進室 シニアマネージャー
油田さなえ様

人事総務本部 DEI推進室
池松奈穂様

取材・文/もうすん
写真/案納 真里江


知らない間にお世話になっている、
パナソニックコネクトのサービス

ー「パナソニック コネクト」とは、どのような会社なのでしょうか。

西川 テレビや冷蔵庫、洗濯機など家電のイメージが強いパナソニックですが、実は家電は全体の1/6程度で、さまざまな事業領域に跨ってビジネスをしています。家電事業や、オートモーティブ、ハウジングなど、パナソニック全体で8兆円くらいの売り上げなのですが、我々パナソニック コネクトは1.1兆円、およそ1/8の売り上げを担っています。
事業領域としては、企業向けのビジネスを主としており、パナソニックの中でも何をやっているのか一番説明がしにくい領域かもしれません。

山口 コネクトの中にも色々な事業があるのですが、共通していることは社会を支えているシステムやサービスを提供していることです。

西川 その中でもわかりやすいのが「公共サービス」に関するソリューションです。
例えば、飛行機の中についているモニターなどは、我々の製品が世界のかなり大きなシェア持っています。ハードウェアだけではなく内部のソフトウェアやサービスも構築しています。今は飛行機でWi-Fiが繋がったり、免税品を購入することができますよね。それらのシステムを構築したり、保守を行うことも事業のひとつです。
また、スーパーやコンビニに行くとクレジットカードや電子マネーを使うための決済端末がありますが、弊社はシェアNo.1です。皆さんが知らない間、いつの間にか弊社サービスを利用されている、それが弊社の事業領域です。
※自社調べ

DEIを推進することは
「人権の尊重」である

ー専用の部署を設置し、役員のお二人が担当をするなど、DEI推進に力を入れている背景はなんでしょうか。

山口 前提として、私たちはカルチャー&マインド改革にとても力を入れています。
それは事業領域をものづくりだけでなくソフトウェアやサービスを強化していく中で、カルチャーそのものを改革していかないと私たちがやるべき事業ができないと考えているからです。改革をする対象は働き方やコンプライアンス、そこにDEIを加えた三本柱になっています。ある意味では事業戦略の中心にDEI推進活動を置いていると言えるでしょう。

DEIに対する取り組みに対して、私たちは明確に「2つの目的」があると言っています。
他企業さんなどでも、DEIに取り組む理由として「企業価値の向上やイノベーションを強化する」といった目的があると思います。
もちろんそれもあるのですが、それ以前に絶対的な「人権の尊重」をする活動としてDEIを推進しています。差別がないことはもちろん、心理的安全性やフェアな労働環境を実現するために、「人権の尊重」を明確に掲げています。

徹底的に「現場」と向き合う、
「DEIキャラバン」

ーパナソニック コネクトにおけるDEI活動の特徴を教えてください。

山口 弊社のDEI活動のユニークなところは、とにかく現場と向き合うことです。私たちの事業はお客様の働く現場や社会の現場にも向き合うことが必要なのですが、DEI活動においても同じです。
実際に「DEIキャラバン」として、私や西川が全国各地の現場に行ってヒアリングしています。すべてのことは現場で起こっているので、小さな声にできるだけ真摯に向き合い、現場の人が声を上げやすいような企業カルチャーを作っていくことが重要だと考えます。

池松 「DEIキャラバン」は、山口・西川のDEI担当役員、そして私たちDEI推進室のメンバーで全国の全事業部門を訪問しています。社員の皆さんとのラウンドテーブルを設定し、皆さんが今どんなことに困っているのか、どんな課題が現場にあるのかという生の声を伺っています。昨年度では14部門のメンバーとのラウンドテーブルを開催しました。

現場の声から生まれた制度が、
グループ全体に波及

ー現場の声から生まれた制度にはどのようなものがありますか。

油田 まず生理休暇に関するものです。もともとパナソニックには生理休暇制度があったのですが、現実にはなかなか取得できないという声が多く届いていました。
まだまだ社員の男性比率が高いこともあり、上司の多くが男性である場合が多く、直接的に「生理」という表現を使いづらいということが生理休暇を取得しづらい要因のひとつであると考えました。
そこで、社内公募という形で生理休暇の新名称を募集しました。たくさんの社員が応募し、結果、「たんぽぽ休(T休)」という、直接的に月経・生理を想起せず、より口に出しやすい名称への変更を行いました。名前だけではなく、これまでは一日単位での取得だったところを半日単位で取得可能にしたほか、PMS(月経前症候群)でも取得できるようにしました。

また、さまざまな場所で仕事ができる「Work anywhere」、住む場所を自由に選択できる「Living Anywhere」、副業制度である「フクギョー!!」についてそれぞれ制度化を行いました。

池松 昨年度は障がいのある社員98名の方、そしてその方の上司へのヒアリングを実施し、総務部門と連携をしながら、自動ドアや自動販売機の設置、駐車場の準備等の環境改善にも取り組んでいます。すべてに対応ができているわけではないので、今後も優先順位を決めながら対応を進めていく予定です。

西川 パナソニックグループ全体の中でも、人の入り混じりが一番進んでいるのがコネクトでして、変化に対応するスピードがグループの中ではかなり早い方です。我々がやったことはパナソニック全体に波及しています。

TRPに参加して気づいた
「現場」の熱気

ー今年のTRPに参加しての感想をお聞かせください。

西川 私は初めての参加だったのですが、本当に驚きが大きかったです! 新聞やニュースで見聞きしていた世の中の盛り上がり・熱量のすごさを肌で感じることができました。当日参加した社員は皆週末に自分の時間を喜んで使っている形です。本当にやりたいことをやっているという気持ちが、体中から溢れていたと思います。

そしてパレードでは、沿道で旗を振ってくれたり声をかけてくれた方々と直接触れ合うことができ、おそらくその中には当事者の方々もいらっしゃったかと思います。パレードに対する期待というのが非常に大きいことを実感しました。同時に、これは「当たり前のことを当たり前に受け入れられる社会を作るためのことで、特別なことではない」ということに気づけたのが私にとって非常に重要なことでした。

山口 今回、パナソニック コネクトとしては社長自身が全社に呼びかけを行い、役員も8人参加しました。当事者の社員の方は「以前の状況を考えると信じられない。嬉しくて涙がこぼれます」と仰っていました。

今年になってからカミングアウトをされるLGBTQ当事者の方も出てきました。限られた範囲でカミングアウトされている当事者の方は今までにもいらっしゃったのですが、こうした活動を続けている中で、オープンにしてもいいと思ってくださる方が出始めてきたのだと考えています。

社会全体の課題として、
取り組みを続けていく

ー今年のTRPのテーマは「変わるまで、続ける」です。こちらについてのお考えをお聞かせください。

山口 弊社のような会社が「変わること」を意識することは、社会に対するインパクトとしても、大変重要だと考えています。DEIに対する活動は、様々な企業様が同じチャレンジをされていますが、今後このような取り組みは社会で当たり前になっていくと思います。変革に向けた私どもの「本気」が、パナソニックグループ全体だけではなく、他企業様にもお互いに波及し影響し合えることが重要だと考えています。
DEI推進の取り組みに終わりはないと考えていますが、まさに「変わるまで」それぞれがチャレンジをし続けることが大切だと思います。

西川 LGBTQに限らず、DEIの活動は「当たり前のこと」であって、当たり前のことを受け入れる気持ちはみんなの中に本当はあるはずだと思います。それが社会や会社のしがらみや、上下関係といったことで難しくなっていることがあると思っています。
「鎧を脱ぎ去る」ことは非常に難しいことですが、私自身、DEIの担当役員をやっていく中で様々な「鎧」を脱いでみたら、心が楽になることを実感しました。

そういったものを皆が脱ぎ去ることができれば、いい会社になっていく。パナソニック コネクトがいい会社になれば、パナソニック全体もいい会社になっていく。そうすれば社会にもいい影響を及ぼして、皆が心から誇れる社会を実現できる。夢は壮大ですが、それが「企業の使命」であると感じています。