多様な“家族”のあり方を。「Panasonic」のロゴが虹色に変わった日
大盛況を収めた2023年の東京レインボープライド。注目を集めていたブースのひとつがパナソニックグループの「カゾク写真館」だった。パートナー、友達、ペット、はたまた一人でも参加でき、プロのフォトグラファーが「カゾク写真」を撮影してくれるブースは、多様な家族のあり方を示す、生活に関わる家電メーカーである同社らしいメッセージが込められていた。
グループ全体で約8万人もの社員が働く大企業の協賛の裏側には、誰のどのような思いが込められているのだろうか。パナソニックグループDEI推進チームの金子由利子さん、ブースの企画者であるパナソニック「ふつう研究室」の白鳥真衣子さん、東江麻祐さんに話を聞いた。
取材・文/もうすん
写真提供/パナソニックグループ
TRP協賛実行メンバーの皆さん
本当の意味で安心できる
職場環境を目指して
パナソニックグループが会社として初めて東京レインボープライド(TRP)に協賛したのは2019年。そのときはブース出展もなく、パレードへの参加も「work with Pride」に参加した1企業としてだった。今年2023年はブース出展と年々協賛を拡大している。
ー協賛の規模が年を追うごとに拡大していますが、どのような背景からでしょうか。
金子 多様な人材がそれぞれの力を最大限発揮でき、働きがいのある環境を実現するため、DEIの推進を社内全体でしています。
会社風土は場所や時代に合わせて変えていかなければいけないものですが、一企業では変えられないものもあります。例えば同性婚ですが、いくら社内でパートナーシップ制度を設けても、法整備が伴わなければ本当の意味で安心できる環境は実現できません。
当事者の方が安心して暮らして働ける環境整備をするために、パナソニックグループとして東京レインボープライドに賛同しています。今年からはそのような会社の姿勢を社内・社外にも示すため、ブース出展を決めました。
パナソニックグループ“だからこそ”
やる意味のあるブースを
ブース出展は、社内の有志が立ち上げた当事者とALLYのコミュニティ「パナソニックレインボーネットワーク」との話し合いから企画を練っていった。商品や最新テクノロジーを中心にした企画など、当初出たアイデアは20以上にものぼったという。その過程でブース企画を担当することになったのが、社内DEIコンサルユニット「ふつう研究室」の二人だった。
ー「ふつう研究室」はどのようにして生まれたのでしょうか。
東江 少し先の未来の「人間らしい豊かな生活」ってどういうことだろう? ということを考えた時に、今なんの議論をすべきで、どういったプロダクトが足りないのか、どういったライフスタイルを研究していくべきかということを白鳥さんと一緒に話をしていました。小規模なプロジェクトとして活動を始めたのが「ふつう研究室」の前身になっています。
白鳥 それは東江さんと二人でやっていた「YOUR NORMAL」プロジェクトというもので、そもそも一人ひとりにいろんな「ふつう」があって当たり前だという考え方が根底にあるものです。性と生、そして「ふつう」ということを考えていく中で、この活動を事業化できないかということを考え、社内で正式にチーム化をしてもらいました。
ー今年出展したブースのコンセプトを教えてください。
白鳥 ブース出展のお話をいただいてまず私たちは「パナソニックグループだからこそやる意味」をブースに設定したいと思いました。パナソニックグループは家電などのさまざまな商品を通して「家族のあり方」を打ち出してきた背景があるので、もっともっと多様な形の「家族」をみんなで祝福や応援をし、それを形として残したいと考えました。そうすればパナソニックグループがこれまで描いてきた世界観とも合いますし、多様であることを象徴できるんじゃないかなという思いから「カゾク写真館」をやろうという方針を決めていきました。
東江 コンセプトは写真館なので、プロのフォトグラファーに撮影を依頼しました。昔ながらのグレーバックで写真を撮るようなことも当初は考えていたのですが、TRP自体がハッピーな場なので、今回はカラフルな色合いのグラフィックを使用したブースにしました。
金子 お二人はストーリー性をとても意識して作られていたと思います。写真を撮って楽しかったね、だけではなく、写真の完成を待っていただいている時間をパナソニックグループが今までどんな活動をしてきたかご説明するのに使ったり。白鳥さんと東江さんはSNSの発信にもこだわってくれて、プライドフェスティバルの一週間前からシリーズで3回、パナソニックグループの公式SNSから発信をしようということで、広報の部門も巻き込んで発信をしていました。
東江 会社のアカウントは普段特定のことを発信するっていうことをあまりしないアカウントが多いのですが、ブースだけじゃなくてSNSでも発信していけたらいいなと強く思っていました。また、私たちのような、社員が多くて名前の知られている企業がそういったことを表明することで、少しでも誰かのチカラになれたら嬉しいなと思っています。
SNS発信のスクリーンショット
大企業ならではの調整を重ね、
本気度を示す
会社としてブースを出すまでに、さまざまな調整を重ねる必要があったという。
金子 SNSの件もそうなのですが、ブースを出展するにあたり、企画に込められた思いを実現するための許可取りや調整をひとつひとつ行っていきました。
例えば、パナソニックグループのロゴをレインボーにしたいという要望は以前から上がっていたのですが、今回初めてロゴをレインボーにする許可が出まして、企業の“本気度”を伝える姿勢を見せられたのではないかと思います。
白鳥 今のロゴのお話もそうなのですが、ブースデザインにも許可が必要な部分がでてきて、そういった調整はたくさん重ねてきました。
金子 私は何度かくじけそうになったこともあったのですが(笑)、お二人含めて、関わってくださったみなさんの素晴らしい熱意に引っ張っていただいてさまざまなことが実現できたと思っています。
TRPへの協賛が、
会社の宣伝であってはいけない
金子 パナソニックグループは以前にも販売会社さんの依頼で、TRPのブースに広告的な形で商品を紹介したことはあったのですが、白鳥さんと東江さんは「絶対に会社の宣伝になってはいけない」と言っていましたね。
東江 宣伝になってはいけない、というよりは、主役が我々じゃない場で商品や会社を前面に出して、プロモーションの場にしたくないという気持ちでした。もちろんその場でパナソニックグループの名前を出してブースを出展するということ自体がプロモーションの一環にはなるのですが、この場ってどういう場なんだっけ? というところにきちんと沿って企画をしたかったんです。
白鳥 そう、ただの宣伝になることは絶対に避けたかったことでした。「お祭りに乗っかっている」という見え方にはしたくなかったんです。
東江 私は今回初めてTRPに参加してみて、こういう場があるんだってことに純粋に感動しました。実際に来場者の方とお話をして「2016年から制度を作ったり取り組みをはじめてるのを知ってるよ!」といった声をかけていただいたり、ポジティブなエネルギーがいっぱいある場所でした。また、社内の有志コミュニティの方にも初めて直接お会いできて、本当に「繋がった」という気持ちになれたと思います。
白鳥 本当にTRPはいい場ですよね。全員がポジティブなエネルギーに溢れている。
どうしてここはこんなに幸せな空間なのに、違う日だったり、会場の外に出たりするとこの空気がないのか不思議に思うくらいです。これが常態化してほしいというか、「あるべきもの」だと感じました。
こんな風に規模が大きくなる前からサポートしてきた人や企業を思うとなおさら、私たちが「イベントが大きくなってから乗っかった」みたいになっちゃうのも違うと思いましたし、私たちのような企業が、これまでイベントを支えてきてくれた皆さんとうまく融合できるような活動に今後していけたら、きっともっとこの素敵な感じが広がっていくんだと思います。
TRPをきっかけに、
グループ全体に活動を広げる
ー今年のTRPのテーマは「変わるまで、続ける」ですが、変わるまで続けていること、変わってほしいことについてお考えをお聞かせください。
東江 私たちは会社の公式でDEIに関する活動をしているんですけど、まだまだ小規模なところがあります。もっと仲間を増やして、まずはこの活動を続けていければと思っています。仲間募集中です(笑)。
白鳥 そもそも私たちがやっている「ふつう研究室」は、やがて陳腐化してなくなるといいと思って始めた組織なんです。「普通ってなんだろうね」「いろんな人の多様なあり方をどう考えていけばいいんだろうね」という議論が必要なくなるくらい、そういった考え方が世の中に浸透していくのがベストですよね。自分たちも考え続けて、アップデートをして、考える機会の提供も続けていく。そうなることで社会的にも許容値が増えるといいなと考えています。
金子 今年パレードに参加したのはグループ全体で200名と、初めての規模でした。事業会社の幹部・社長もたくさん参加してくれまして、その発信も含めて随分仲間が増えたような感じがしています。
ですが、その次の活動が見えないとこのせっかくの勢いが沈んでしまうので、この先もALLYの輪を広げていけるような活動に結びつけていきたいと考えています。
パートナー制度など福祉制度の見直しもそうですが、さまざまな形で社員の一人ひとりがいきいき働ける職場になるよう、検討を重ねています。
弊社は松下幸之助さんが作った会社で、彼の経営理念というものがすごく浸透しているんです。
幸之助さん自身の言葉だとちょっと硬くなるのですが、「多様な意見に耳を傾けましょう」「ありのままを素直な心で受け止めよう」「それぞれの社員の知恵をみんなで活かして発展しよう」といったことが経営理念に含まれており、それはダイバーシティの土台となる考え方だと思います。
私たちはそれを叩き込まれているので、パナソニックグループはその方向にぐっと進んでいくことができる。それが弊社の良いところの一つであると考えます。